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遺産相続における預貯金の引出しは、残された遺族、特に喪主にとって最も重要な手続きの一つです。誰かが代わってやってくれるものではありません、やらなければ不利益を被るのは喪主とその家族です。しかし、注意も必要で、法律的に有効な遺産分割協議書でなければ、預貯金の引出しは難しいことも多いのです。
また、相続人が複数人になる場合、これら相続人全員が円滑に同意でき、後々のトラブルを回避できるような遺産分割の記載内容が重要となります。
本記事では、遺産相続における預貯金引出しに役立つ、法律的に有効な遺産分割協議書の基本と、相続人全員が円滑に同意でき、後々のトラブルを回避できるような、おすすめの遺産分割協議書の作成ポイントについて詳しく解説するとともに、預貯金引出しに役立つ遺産分割協議書ひながたを紹介します。
預貯金引出しに役立つ遺産分割協議書の基本
遺産の中でも預貯金の引出しは、相続手続きにおいて重要な項目です。預貯金を円滑に引き出すためには、遺産分割協議書が必要となります。この協議書は、相続人全員が同意して署名することで、各金融機関での手続きをスムーズに進めることができます。
預貯金引出しの重要性
死亡により故人の銀行口座は凍結されます。故人の収入で家族の家計を支えていたような場合、故人の銀行口座が凍結されることで、葬儀費用の支払い、家賃や水道光熱費などの引き落としができなくなります。残された家族が故人の葬儀を進め、日常生活を維持するためには、一刻も早く故人の預貯金の引出しをしなければなりません。
故人の預貯金を引き出す際には、金融機関は必要書類として遺産分割協議書を求めることが多く、この書類がないと預金引出しの手続きが滞る可能性があります。したがって、故人の預金引出しをスムーズに行うためには、速やかに遺産分割協議書を作成することが大切です。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書は、相続人全員が共同で故人の遺産の分割・分配の方法を協議し、どの遺産が誰に帰属するのかを決定した内容を文書に記したものです。これは相続人全員の署名と押印が必要であり、正確で明確な内容が求められます。この文書があることで、故人の遺産を相続する権利が法律上どの相続人に帰属するのかわかるので、金融機関や不動産登記、その他の手続きが円滑に行えるようになります。また、遺産分割協議書を適切に作成することで、後々の相続人間でのトラブルを未然に防ぐことができます。
遺産分割協議書の作成手順
遺産分割協議書を作成するには、まず、誰が相続人になるのかの特定を行います。遺言書があれば遺言書の内容を確認し、遺言書が無い場合には、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取り寄せるなどして、誰と誰とが相続人なのかを確定します。
次に、故人の遺産を調べます。預貯金、不動産、自動車、株式などのほか、負債の有無も調べる必要があります。プラスの財産よりも負債の額が大きい場合には、所定期間内に相続放棄するなどの必要も生じます。
遺言書において、個別の財産ごとに誰が相続するのか指定されている場合を除き、基本的には全ての財産は、法律で定める割合で各相続人に分配されることになります。例えば、父が死亡し、母と子供2人が相続人である場合、父の遺産の2分の1を母が相続し、4分の1ずつを各子供が相続すると法律では定められています。
ただ、生活費にかかる預貯金や不動産などは、そもそも夫婦共有の財産であり、今後この家族の生活を支える母が代表して相続するのが現実的であることから、法律の定めどおりとは異なる遺産の分割・分配方法を定める必要があります。遺産を法律の定めとは異なる方法で分割・分配するには、相続人全員による遺産分割協議でその旨を決定する必要があります。適切な方式による遺産分割協議で定めた結果は法律上の効果をもちます。
そこで、相続人全員に遺産分割協議の参加を呼びかけ、故人の遺産のうち誰がどの遺産をどういった比率で相続すべきなのかについて意見をまとめます。これは実際に会議を開催する場合もありますが、専門家の助言を受けながら遺産分割案を文書に記載し、これを相続人全員に回覧して同意を得るという方法もあります。
相続人全員の合意を得たら、遺産分割協議の内容を遺産分割協議書という文書にし、この遺産分割協議書に相続人全員の署名と押印を行います。預貯金引出しや不動産登記などの場合は、相続人の押印は登録された実印が要求されることが一般的です(印鑑登録証明書の添付も必要)。
以上で遺産分割協議書が完成します。
円滑な同意とトラブル回避のための遺産分割協議書作成ポイント
喪主の作った遺産分割案に相続人全員が円滑に同意するためには、透明性と公正さが重要です。相続では特に、感情的な問題が絡むことが多いため、専門家の仲介やファシリテーションが有効な場合があります。遺産分割協議書を作成する際のポイントを押さえることで、円滑な手続きが期待できます。
同意しにくい遺産分割案とは
同意しにくい遺産分割案とは、相続人間で意見が大きく分かれる場合や、特定の相続人が不当に遺産を独占する形に見えてしまう場合が考えられます。
また、もともと相続人どうしが人間関係で対立していたとか、相続人どうしのコミュニケーションが少なかったことにより、喪主の提案に対して感情的に同意できないことも少なくありません。
後々にトラブルの生じやすい遺産分割案
喪主が提示した遺産分割案に対して一旦同意はしたものの、内心では不公平感をもっていたり、遺産分割協議時の説明で透明性に欠けていたりした場合、後々にトラブルが生じやすくなります。
特に、故人の遺産調査に漏れがある不完全な状態で遺産分割案が提示されていた場合や、事実とは異なる理由を説明して特定の相続人に有利な内容とした遺産分割案であった場合は要注意です。
おすすめの遺産分割協議書作成方法ポイント
以上のような、同意しにくい遺産分割案や、後々にトラブルの生じやすい遺産分割案となることを避けるためには、故人と家族との生活実態なども正直かつオープンにして理解を求めたり、意見が違っても感情的にならず、個々の相続人の意見は尊重しつつ、現実的かつ合理的な解決策を相続人全員で議論したりする姿勢がおすすめです。
また、故人の遺産調査はできる限り詳細に行いつつも、調査時に把握できなかった遺産が後日発見された場合にどういう対応をするのかについても遺産分割案に盛り込んでおくことがおすすめです。
相続人どうしの感情的な対立が予想される場合は、手数料はかかりますが、専門家の助言を仰ぎながら遺産分割協議書を作成することが効果的です。
預貯金引出しに役立つ遺産分割協議書ひな形
遺産分割協議書ひな形は、自分で遺産分割協議書を作成する際のガイドラインとして利用できます。遺産分割協議書ひな形を参考にすることで、遺産分割協議書の必要項目を漏れなく記載でき、法律上有効な遺産分割協議書を作成することに役立ちます。以下に、預貯金引出しに役立つ遺産分割協議書ひな形の例を示します。(赤字はコメントです)
遺産分割協議書
被相続人 田中太郎(昭和〇〇年〇月〇日生まれ)
死亡日 令和〇〇年〇月〇日
本籍地 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
最終の住所地 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
被相続人田中太郎の遺産相続につき、被相続人の妻田中花子、被相続人の長男田中一郎、被相続人の長女田中幸子の相続人全員が遺産分割協議を行い、次のとおりに遺産分割の協議が成立した。
1.田中花子は次の遺産を取得する。
預貯金:〇〇銀行〇〇支店 普通預金
口座番号123456
*妻の田中花子が単独で預貯金の引出しを行えるようになります。
2.本遺産分割協議書に記載なき資産および後日判明した遺産については、田中花子がすべてこれを取得する。
*預貯金以外の遺産すべて(負債も含む)を妻の田中花子が相続します。
以上とおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、これを証明するため、本遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印のうえ1通ずつ所持する。
令和〇〇年〇月〇日
住所 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人 田中花子 (印)
*署名はボールペン等による手書きが望ましい。押印は実印。
住所 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人 田中一郎 (印)
*署名はボールペン等による手書きが望ましい。押印は実印。
住所 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人 田中幸子 (印)
*署名はボールペン等による手書きが望ましい。押印は実印。
以上は妻が単独で預貯金引出しをする場合の遺産分割協議書ひな形となります。その他の遺産がある場合や、これと異なる遺産の分割・分配をする場合は利用できませんので、ご注意ください。
まとめ:預貯金引出しに役立つ遺産分割協議書の作成ポイントとひな形
遺産分割協議書は、相続手続きを円滑に進めるための重要な書類です。特に預貯金引出しにおいては必要不可欠な書類と言えます。
遺産分割協議では、相続人全員の意見を尊重し、公正で透明な提案を心がけましょう。相続人どうしの感情的な対立を避けて公平かつスムーズな手続きを行うためには、専門家の助言を活用することも推奨されます。
遺産分割協議書ひな形を参考にしながら、法律的にも有効な遺産分割協議書を作成することが、特に預貯金払戻しにおいて円滑な手続きの鍵となります。